DAVE THE DIVER

この作品を非凡たらしめているのは、他のゲーム作品に比肩するものがないほどの『スシとジャパンカルチャーと飲食店文化』に対する尋常ならざるこだわりと愛情、理解と造詣の深さとリスペクトなのではなかろうか。
一見すると一発ネタのおふざけコンセプトのミニゲーム集ようなこの作品が、想像を遥かに越える素晴らしいプレイ体験を供せた所以は、そんな高潔で執念滲むクリエイターの魂に求められるのかもしれない。バランスのいいミニゲームやセンスの光るネタ演出から漏れ出るそれは、細部に至るまでの演出に力強い“本気度”を宿らせ、これをただの馬鹿ゲーなどとは呼ばせはしない迫力を醸し出している。
「研ぎ澄まされた適当、磨き抜かれたいい加減」と形容するに相応しい、ブレないコンセプトに裏打ちされた本気で創り上げられたゲームプレイは、馬鹿ゲーとしてナメてかかったプレイヤーのハートに強烈なパンチを浴びせ、その心を掴んで離さない。
確かにフザけてはいる。
寿司レストランのシェフは夜でもサングラスを外さない怪しげな黒人で、金持ち向けのリゾート地に佇む寿司バーはいかにも色物じみていて、クマノミやクリオネの寿司が平然とメニューび、登場人物もステレオタイプなキモオタＡやキモオタＢ、イカれた美食家やイカれたシーシェパードや海賊や魚人といった面々で、常識的で正統派なキャラクターなどいやしない。
しかしそのいずれもが、薄っぺらな上滑りをしていない。どの設定・要素・キャラクターにも明瞭な想いや信念がある。そこには「とりあえずウケれば良い」だけでない、作り手の表層的でない意志力がある。
特に日本人としてこのゲームをプレイして驚いたのは、外国人の勘違いスシ描写の間に垣間見える造詣の深さだ。
深海魚や古代魚の握り寿司がある一方で、普通に美味しそうな魚介料理や各種王道握り寿司もしっかりメニューに組み込める。マグロだってキハダマグロと本マグロでそれぞれ赤身と中トロと大トロがあったり、シャリに使っていたインディカ米を改めるイベントもある。バンチョが寿司を握るシーンもふざけているように見えて細部に“それっぽい描写”がしっかり落とし込まれていて（作業のあと手拭いで手をふき取る様子など！）「ああ、どうせまたガイジンの描く無理解なスシ料理が出てくるのだろう」という日本人の予感を裏切る（でもしっかりふざけてはいる）そのこだわりと心意気には感心するばかりだ。
これらの描写は、適当に海外のスシレストランに何度か訪れて、日本旅行も兼ねた寿司屋取材を軽く行った程度では到底できないものなのではなかろうか。
そしてスシに限らない『飲食（店）文化』の描き方もまた、個性的でこだわり抜かれている。
各イベントのなかで語られる味の具体的説明や、トンデモ料理に対するバンチョの説明は奇抜な外観に対してしっかりしたものになっている。実際にひとくち食べてみたい程度には美味しそうなのだ。だから日本の漫画風のオーバーリアクションで描かれる美味しさへの感動も「ネタに走ってマンガをパロディした」というだけではない不思議な説得力があり馴染んでいる。お店の評価をする要素はSNSで、営業努力に比例して徐々にフォロワーの反応も増えていく。愛嬌のあるミシュラン審査員は味だけでなく、お店の衛生もチェックする。そうして成長をしていくバンチョ自身やお店の知名度も、地元紙の取り上げから料理の鉄人的なTV番組の放送に至るまでのし上がっていく過程は、お笑い要素を備えていながらもとても真摯で現代的で、我々庶民にも身近に感じられる世界観を形成している。
つまるところ、このふざけた馬鹿ゲー風のゲームは、実は従来のあらゆるゲームに比肩するものがないほどに『飲食店を中心に据えた食文化』というものを説得力と深い洞察をもって、明るく陽気に遊び心をもって描いていると言えるのではなかろうか。
そしてそんな明瞭で揺るがない個性あるコンセプトが、魚の銛付きにはじまり、飲食店経営や配膳接客や、生け簀や畑の運用シミュ、選択型ストアドベンチャー、『俺の料理』風の料理対決に至るまで無数のとりとめのないミニゲームを一貫して貫いているのだ。やることは多いけど、プレイヤー視点の体験が「なんで今こんなことをやらされているんだろう…」とブレることがない。
とはいえ、たまごっちやキモオタの夢に出る音ゲーや魚人の村で遊べるカジノなど、唐突感のあるミニゲームもいくつかねじ込まれている感はある。
しかしながら、そのいずれもがテキトーなウケ狙いのオマージュではなく非常に深い元ネタへの理解をもって再現・描写されているから、安っぽくて寒い印象を受けることはない。たまごっちはしっかりたまごっちだし、キモオタの妄想はたいへんにオールドスタイルに気持ちが悪くそして愛嬌がある。
一部でこのゲームの評価で触れられてる“ローグライクな要素”は薄いと言える。
ブルーホール上層は多少のマップ変化はあるが、出現する魚に大きなブレはないし漁に与える影響は薄い。中盤以降は猶更で、ブルーホール深層や氷河区域に至ってはマップも魚もほぼ固定なので、中盤以降は潜るワクワク感がだいぶ薄れてしまい、高単価な魚を乱獲する作業が続くことになる。イッカクやニシオンデンザメの個体数減少が危惧される。
このゲームのメインパートである漁のアクションも快適とは言えず、愚直に装備をアップグレードして残り酸素に気を使いながらライフルでサメをハチの巣にするか、麻酔で眠らせて地上に送るかを繰り返すことになる。スシ店経営＆接客パートは一晩でいくら稼げるかをストイックに求めるのが楽しいが、特に頭打ちのハードルが設けられているわけでもなく、ごく順当にスシやスタッフをレベルアップさせていけば成長することができる。経営シミュレーションとしてこれといった工夫の余地があるわけではない。
実はこのゲームを構成するミニゲームひとつひとつは特筆して優れたものではないのだが、それでもゲームプレイの体験が代えがたいものに仕上がっているのだから、作品全体の構成力とブレないコンセプトが驚異的であるとしか言いようがない。
小太りのオッサンを操作して似非スシレストランを経営する韓国のインディーゲームが、すさまじい中毒性と魅力でもって自分の心を掴んで離さず『FF16』『Diablo4』『スト6』のプレイを10日間止めたという事実には、インディー作品の奥深さと可能性に改めて感じ入る限りだ。
願わくばデイヴ・ザ・ダイバーほどに深い洞察でもってひとつのコンセプトに向き合った美しいゲームに、これからも出会いたい。
そのほか細かい感想
・主人公を小太りで人の良いオッサンにしたのは大正解だ。南洋ののびやかな雰囲気とアクの強い色物キャラに振り回される役柄にマッチしてる。凡百のゲームだったら美少女かイケメンになっていたことだろう。
・それにしたって登場人物の8割方がオッサンとオバサンというのは割り切ったものだ…
・ステレオタイプなキモオタへの解像度も異様にレベルが高い。日本人がコンテンツで描写するそれ以上のキモオタ感がダフにはある
・どんなに店員レベル上げても魅力が上がらないサキが可愛い
・スシに限らずアニメ・漫画的表現も含めジャパンカルチャーへの造詣の深さが見て取れる。気合の入った日本オタクのガイジンが燃やす熱情には、他に代えがたい味わい深さがある
・職人気質でコミュ障のバンチョが、だんだんSNSの対応を覚えて客への態度を変容させる過程が感慨深い…
・イルカ密漁して食肉加工してるシーシェパードが狂ってて好き
・ツンデレを極めるミシュラン審査員が可愛い

ただしオナガザメ、テメーはダメだ。
【10/11追記】
アップデートでオナガザメに調整が入り弱体化したようです。
今までやられた分、たっぷり懲らしめてやりましょう。

大量のドット絵に圧倒されるゲームです。
濃いキャラクターたちの織り成す日常、ぶっ飛んだシナリオがノリノリでテンポよく進んでいくのでとても楽しめます。
難点は、シナリオ中に作り込みが凄いミニゲームがたくさん入っていて、海中探査に集中したい人には少しイラつくかもしれない点です。
追伸
きっとこのゲームをプレイしたら寿司が食べたくなると思います。
（近所でパック寿司を買ってきて食べながらレビュー中♪）

濃い口一発ネタ盛り合わせ
全体のボリュームは多い方ではないが、満足感は高い。
その場限り一回だけのイベントのために用意されたと思われる、やたら手の込んだドット絵アニメーションやミニゲームが多数。
次は何を見せてくれるのかとプレイのモチベーションが尽きず、気付けばエンディング。
まだまだ遊び足りないので、続編やDLCが欲しい。

「圧倒的に好評」は信じていいと思います。
ムービー見て面白そうだなと思ったら、定価でも買い。
気になる点いっこだけ。
客がクチャラーなので営業中延々と咀嚼音が流れてキツいです。

製品版が待ち遠しすぎる。
おもしろすぎて今やることをお勧めしない。
ちょこちょこボリューム不足感はあるけど、アーリーアクセスだと思えば。
むしろ、遊びすぎて製品版になったとき楽しめなくなりそうで怖い。
オープンワールドじゃないけど、変に広いだけのオープンワールドよりオープンワールド感がある。

比喩でもなんでもなく思ってた３倍遊べるゲーム
８時間で終わるかなと思ったら開始１８時間でまだ終わらない